薬剤師としてキャリアアップを検討した際に候補にあがることが多いCRAとMRですが、この違いが分からない人が、実は少なくありません。この2つは非常に似ている職業なのですが、その目的は大きく違ってきます。
端的に言えば、CRAというのは、現状、薬として認められていないものを、治験等を通して、法的に承認されるための準備をしていく業務を担う職業と言えます。薬の効能を実証するデータを集めたうえで、関係機関（日本であれば、厚生労働省）に提出する書類を作成するというのが、主な役割となります。
また、治験の過程で、不正や手違いが発生しないように、医療機関や医師を監査することも、CRAの重要な役割となります。
一方、MRというのは、自社の医療用医薬品に関する医薬情報（医薬品およびその関連情報）を医療関係者に提供することで、医薬品の適正な使用と普及を図ること、及び、使用された医薬品の有効性情報（効き目や効果的な使い方）や安全性情報（副作用など）を医療の現場から収集して、自社の開発部門に報告することが、主な役割となります。
MRから開発部門に伝えられた情報は、既存医薬品の改良、新薬開発に役立てられることになるので、そういった意味では、MRは医薬品開発の一端を担う職業とも言えます。
また、ある病院から得た情報を別の病院に伝えるなど、医療関係者間の情報を共有することで、現場での使用をさらにより良いものにするといったことも、MRの重要な役割となります。
CRA、MR、どちらも医薬品に関与していく重要な職業ですが、その役割、職責に関しては、大きな違いがあります。
より営業職の色が強いのはMR
MRはCRAと比較すると、営業色が強くなる職業です。まだ、自社の医薬品を使用していない医療機関に医薬情報を提供する過程で、自社商品を採用してもらえるように（購入してもらえるように）、働きかけることになるためです。
他業種における営業活動ほどではありませんが、契約を勝ち取るための交渉や駆け引きが必要になってきますし、接待に近いことも時には行うことになります。（製薬業界では2012年に接待が規制されたため、露骨な形はなくなりましたが、懇親会や慰労会といった形で、続いています。）
そのため、MRには医薬品に関する専門的な知識に併せて、営業能力を身につけていることが求められます。一般的に薬剤師は業務上、営業活動に従事することはないので、MRに転職した後、この部分でストレスを感じてしまう人も少なくありません。
なかには、どうしても馴染めず、退職することになってしまったというケースもあります。MRは営業マンと割り切れるぐらいの人でないと、成功するのは厳しいので、自分がそういったことが出来るのか、よくよく考えるようにしてください。（営業は向き・不向きがハッキリ分かれる仕事です。）
なお、CRAについては、商品を販売する営業活動に従事することはありませんが、治験プロジェクトに関わる医師や看護師など、複数の人間と連携を取りながら、業務を進めることになりますし、メンバー間の利害関係の調整や人員管理を担当することにもなるため、コミュニケーション能力、交渉力、プレゼンスキルなどが必須となります。
CRAからMRになるのは厳しい？
最終的にMR、CRA、両方の職業に就くことを目指すという薬剤師も少なくありません。この場合、MRとして勤務した後、その後CRAに転職をしていくという選択をする人が多いです。
その理由としてMRは、あまり中途採用に積極的でないため、年齢が若いうちでないと、採用されるチャンスが限られてくるためです。（30歳を超えると、未経験者が転職を目指すのは、かなり難しくなります。）
一方、CRAは中途採用が積極的に行なわれている職種であり、CRO企業は未経験者の採用にも積極的なので、調剤薬剤師からの転職のハードルは低くなっています。また、仮に調剤薬剤師からMRに転職した後、数年を経て、CRAに再転職するというのも容易です。
MRの職種経験も、CRAには活きるため、調剤薬剤師・MRの2職種を経験しているというのは、大きな武器となるためです。（特に、営業経験は活きます。）そのため、MR・CRA、双方の仕事を経験したいという場合には、MR→CRAというのが、無理のないパターンとなります。
MR、CRAのどちらが優れているということはない
MRとCRAは外部からは違いが見えづらいこともあり、同じものと思われがちです。当然比較されることが多い職業でもあるのですが、こうやって見ていくと、全くの別物ということが分かると思います。
似たような要素がある反面、求められる能力、考え方は、それぞれ違ってきます。そのため、自分が仕事を通じて何をしたいのかということを考えて、どちらの仕事を選択するのか決めていくことをオススメします。
